思考の社会学 ~心理学革命~

人それぞれ、様々な個性的思考のもと、論議し生活している。我々は人々に影響を与え、影響を受け、時代が変わってきた。 そんな様々な思考が交錯することで生じる時代変化など、心理学的にまた社会学的に考察する。

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嫉妬心理学の社会的効用 ~川端康成と太宰治~

太宰治は、川端康成の評論にたいして意見を述べた。それは芥川賞選考側の川端が、被選考側の太宰の作品について述べた文藝春秋の書評が発端であった。

川端は 「私見によれば、作家目下の生活に厭な雲ありて、才能の素直な発せざる憾み(うらみ)があった」 と評したらしいから、そこには川端自身の貴族階級への努力とその獲得の自尊心があらわれてしまっている。彼は全く成り上がり宮廷人気分にあり、出入りする人々の許可する品定め役となってしまったのだ。

そんな1935年の芥川賞設立に至るまでの川端の経緯は、1923年の関東大震災からの 「伊豆の踊り子」1926 にあるだろう。おそらく彼は大震災の人々の苦労を見て、自分の個人的苦労を恵まれたものと考えたのだろう。「伊豆の踊り子」 の六節には、そうした川端の心境が象徴されている。



「私自身にも自分をいい人だと素直に感じることが出来た。晴れ晴れと眼を上げて明るい山々を眺めた。瞼の裏が微かに痛んだ。二十歳の私は自分の性質が孤児根性が歪んでいると厳しい反省を重ね、その息苦しい憂鬱に堪え切れないで伊豆の旅に出て来ているのだった。だから世間尋常の意味で自分がいい人に見えることは、言いようなく有り難いのだった。」



悪辣に言わせてもらうが、川端は 「太宰君は才能を素直に発せざる憾みがあり、まだトンネルの中にいる。文学とはトンネルを抜けたところにある。」 と言ったに等しい。つまり芥川龍之介を考慮しながら文学選考したのではなく、別に頼まれていないのに書かれた精神科医からの診断書であった。おそらく川端には悪意はなく励ましの意味もあったのだろうが、しかし芥川龍之介を考慮できていないばかりか、自身の人生観の箔付けに太宰治を利用していることに気付いていなかった。太宰が川端の文章に 「世間」 を感じたと言ったのは、まさに川端が世間受けする人生観を利用した評論をしたからであった。芥川は 「世間」 を味方につけた他者批評を避けた人物と見ていた太宰だけに、なおさら芥川賞選考委員としての文章に反応した訳である。

第一回受賞作は石川達三の 「蒼氓」 であったが、太宰は彼の受賞に言いがかりをつけた訳ではなかった。むしろ川端が石川をアベル、太宰をカインとして扱おうとしたようなものだ。カインは評価元に目を上げることは出来なかったが、太宰は評価元を見た。選考結果は別として、その川端の文学を離れた評論にたいして目を上げた太宰であった。川端ほどの立場であるならば当然世間的意見と文壇的意見のちがいについて気付いている訳なのだが、それを詳細のわからない世間的意見を味方につけるような形で評論をしたので、意見を述べた太宰であったのだ。その川端からの返答には、出来るだけ説明をしないで済ますよう安上がりな自己箔付けを狙う保守的政治家の方法をとったのだから、囲い込み集団の守護を期待する取り巻きのことしか考えていなかったものと理解せざる負えない。

芥川賞選考委員とは、一体どうやって選ばれたのだろうか?選考委員の批評について、互いに充分な議論がなされたとは言えない。彼らは自らが関係する芥川賞を持ち上げるため、互いに牽制し合い、候補者を品定めすることで協力したのである。すでに第一回において、その不備を露呈した芥川賞であり、太宰の芥川理解の優位性が歴史に刻まれたと言える。その歴史的結果は、いつになったら考察され始めるかが今後の問題となるだろう。それが公然と問題提議されないうちは、 「死人に口なし」 と言うことで芥川の世間的知名度を利用した、ただ自身の選考状況の聖域を保つための文学階級の囲い込み戦略であり続けるだろう。



「天才とは僅かに我々と一歩を隔てたもののことである。……同時代はその為に天才を殺した。後代は又その為に天才の前に香を焚いている。」



この点をより多く理解していたのは、川端か太宰か?私としてはすべての芥川賞作品を読んだ訳ではないが、芥川賞に相応しかった一つには第五回受賞作、尾崎一雄の 「暢気眼鏡」1937 があげられ、そこには龍之介の 「侏儒の言葉」 で示されていた "蝶と百足の言い合い" と重なる、他者卑下からの自己への再帰が見られると言っておきたい。川端と太宰の議論自体も、何やら蝶と百足の関係と同じ状況と言えるかも知れないが、やはり芥川をより理解していたのは川端よりは太宰の方であったと思う。まあ~、結局は商業的自由で行っているものであって、文学的権威なんかは意図していなかったなどなど、あらかじめこちらが深刻面しているかのように様々な茶々入れの御準備された芥川賞選考委員の発足だったと言える。



それにしても川端康成(1899-1972)の心理学的見解とは、むしろ森田正馬(1874-1938)の [とらわれ・あるがまま] の解釈図式にあったように思われる。川端自身は自らの孤児根性のとらわれを克服し、素直さからあるがままの才能開花となったと解釈しているかのようではあるが、それも日本文化に沿った風潮であったから仕方がないと言えば、仕方がなかったと判断しなければならない。

しかし、それは過去の自分を卑下しながら実は現在の自分を持ち上げたものであって、強いては他者解釈へと転化させたステレオタイプだった点は打ち消し難い。さらにはアドラーの劣等感克服の心理学と酷似した形で、後々の日本文化へと影響を残すこととなっている。

なるほど、ドラえもんもネズミに耳をかじられた猫のコンプレックスから見事に発明によって昇華した点で、まさにアドラーの心理学に教育されたロボットであった。しかしドラえもんは不器用であった。もっと芥川賞選考委員を見習って自らが品定め階級に就任できるよう、発明品を貸し出しする際には広く人々を募集して選考するべきだったのだ。全く一人のび太君を贔屓してしまったために、逆に 「貸してくれないなんて、ケチくさいな~」 と、自分が品定めされる立場になってしまったのである。いやいや、ひょっとしたらドラえもんも太宰の気持ち、あるいは竜之介の気持ちが心痛いほどにわかっていたから、あえて選考委員のような真似が出来ず、わざわざのび太君のみを選考して近づいたかも知れない。

ともかく川端康成は日本文化の伝統的な森田療法の [とらわれ・あるがまま] で太宰治を測定したが、やがて色んな心理学が輸入されると、フロイト的ウィーン派の [自己愛・協調] で測定する者や イギリス派の [依存・自立] で測定する者が太宰解説をし始めた訳である。太宰が洞察していたように、それらは漠然とした 「世間」 や 「社会」 を味方につけたような雰囲気で語られるものであった。彼らは川端康成と等しく、それぞれの仕方で過去の自分を卑下しながら現在の自分の成長を信じたのであり、実際は自分の成長観にとられていたために太宰から責められているように感じていたにもかかわらず、逆に人を責めるようになった心理を太宰の中に探していたのだ。また被害者妄想とか仮想敵とかによって他者を解釈していた訳だが、よく見ればどっちもどっちだったと言える。イソップ物語の 「すっぱい葡萄」 という正当化というものがあるが、たいていの太宰治論も立派な 「すっぱい葡萄」 的解釈だったと、いつの日かわかって笑える日が来るのだろう。



川端康成は嫉妬心理学を太宰治に適用して、その社会的普及状況を眺めていたのだろう。彼は小林秀雄が芥川竜之介の自殺を説明したのと同じ見方をしていた訳である。川端や小林にとっては、個性的人間を匿名大多数に説明するのが仕事だった。そのためお客さんにあたる匿名大多数についての説明をしない。つまり特定のプロレス観戦者を喜ばすために自由自在に勝負判定するレフリー、もしくは実況解説役を演じたようなものなのだ。彼らが抱いていた匿名大多数についての心理学とは、個性的人間を説明する際にこっそりと参考にするための職人的な知的財産であったゆえ、決して公表されることはなかったのである。

それは決して今日の日本の状況も例外ではない。政府や東電の情報公開の節約も、川端康成や小林秀雄の節約と同じで、囲い込み集団守護を優先させた部外者観察の賜物である。まあ~、結局は私自身を含めて、みんな似たようなことをしているから、ひとまずは暴露しようとする太宰を叩くことで協力し、それから互いに利権確保で競争しましょうという、現代日本である。

全く川端康成と太宰治の対立とは、過ぎ去ってしまった遥か昔の出来事などではなく、今日の日本社会にも、ほんのりと見え隠れするものなのである。そして茂木健一郎的な脳科学とは、さらに無駄な争いを削ったことで、無難な小林秀雄がとても似合っていた。



龍之介は相対性理論に興味を抱くが、秀雄はアインシュタインの脳について説明するのが仕事である。



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  1. 2011/05/31(火) 23:29:27|
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