思考の社会学 〜心理学革命〜
ヴィーコ 永遠の理念史
2010/06/29 20:26

日本では70年代以降、団地化や核家族化、あるいは学生運動の終焉などから団塊志向が減退し、カモメ的な個人主義理念が強化された。その同伴現象としては「血液型性格判断」71の先天的遺伝説や育児教育に関わる後天的環境説などの、個人心理学的理念も普及浸透した時代と思われる。そしてまた、流行語の「断絶」69、井上陽水のアルバムタイトル「断絶」71から察せられるのように、【伝統と時代変化】の狭間が意識されていた時期に相当するのである。

その【伝統と時代変化】の理念の断絶、あるいは分断について考えるにあたり、ここで18世紀イタリアのヴィーコを取り上げてみたいと思う。ヴィーコは、簡単に言えば、当時のデカルト的合理主義なり啓蒙主義とは反対した立場にあった。日本では中央公論社の「世界の名著33」シリーズでも扱われているので、それを参考として論を進めることとするが、70年代以降の日本において新たに普及浸透したであろう個人心理学に、その合理主義的なデカルトの知識態度を見立てられるのである。

その新たに台頭し始めた個人心理学とデカルト的な知識態度の類似点とは、過去からの伝統的知識を疑い、ただ新たな合理的と見なされる蓋然性を頼りに物事を解釈していく方法にあり、また人間の理性には現実写実の能力が充分あると信じて、新たな解釈へと集中していくことにある。日本における世界史観とは、西欧のルネサンス、宗教改革、市民革命、産業革命と、順次に自由解放化されてきたと見る傾向が大勢であって、当然のようにデカルト的な合理主義の方法を頼りとした。

ではヴィーコは何をしたのか?

おおよそヴィーコは、"言葉"、"知識"、"理性"などについて、それを社会的かつ歴史的な仲介物として見ていたのである。歴史的な様々な理念は、その時々の社会的現象と結びついて、共に変化してきた仲介物とされている。一方のデカルト的な合理主義とは、理性について現実を写実しうる道具と見なして、その写実された合理的絵画の普及に努めているのだが、反面、その自らが普及に努めていることの社会的かつ歴史的な位置付けについては盲目なのである。ただ新しい時代に自らの新しい合理主義が生じたと、過去の歴史的理念は、ただ改革される産物と扱われるのだ。

そこで、ヴィーコの方法や解釈図式について、それがどんなものかを、前掲中央公論社の邦訳「新しい学」から概要をまとめてみたいと思うのだが、要となるのは小区分番号「7」、「347」〜「349」で述べられる【永遠の理念史 storia ideal eterna】である。"言葉"や"知識"などは合理主義が思っているような、"より真実なるものを記していくための人間の発明した道具"ではなく、むしろ"歴史的流れの中で生じる段階的な布石"なのである。その段階的布石と言っても、単純な"発展説"ではなく、旧約聖書「創世記」11-7のバベルの塔を思わせる言葉の混乱「62」から、すべての民族の歴史全体を一貫する流れ「7」を見るものである。また永遠の理念史は人間により作成されるのだが、その理念史の作成自体が理念史の中の歴史的出来事と意識されなければならないもの「349」でもある。



日本の血液型性格判断の発生状況を見れば、それはデカルトのような合理主義とは行かなくとも、実証主義の研究態度によって普及した考え方である。しかしヴィーコ主義の立場からすれば、血液型性格判断なども何ら「古事記」や「日本書記」と変わらない一つの理念にすぎず、その理念を抱いている人々による歴史変化が重要なのである。私の場合は、そのヴィーコ的な歴史変化を考察するにあたり、【文化的環境】あるいは【理念的環境】と言う事柄を追加しておいた訳である。またヴィーコがマキャベリやスピノザも読んでいたことも考え合わせれば、「新しい学」は内容の信憑性は別問題として、ヴィーコの考慮していた全体的な現実、歴史、社会など【起きたことのすべて】についての解釈図式は、他の著名なる学者と比べてもずば抜けている。まあ私自身としては、「日本のヴィーコ」気分で現代日本を見つめている感じだ。

それはそうと、「新しい学」とは、特に古代ギリシャ文化と古代ラテン(ローマ)文化の区別を基準として、ヴィーコ自身はラテン文化の歴史的延長上にいると解釈して書かれている。マンハイムの知識社会学、フーコーの知の考古学、他各種の言語学など【知識論的立場】の理論を肉付けして行く方向が、今後の学の発展領域にあろう。デカルトとヴィーコのちがいとは【性格論的立場】と【知識論的立場】にもあるのだ。(ヴィーコにも性格論的説明はあるが、彼は理念史を説いているのである)実際のところ、「新しい学」に写されたであろうヴィーコの世界観を研究するだけでも、相当の解釈図式を構築できるものになっている。



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